Interview | バー文化の開拓者、「(株)喜色満面堂」西尾圭司対談

IMG_9361

店は思想を体現したもの

樋口「西尾さんが新しい事をする時、必ずとがったもの、もっといえばカルチャーをぶちこみますよね。そこが他と違う」

西尾「29歳の時に、店というのは情報発信の場なんだと確信したんです。飲み食いというキーワードでやる以上、美味しいものを出して当たり前なんです。そこに『人』がひっついてまとめたらコンテンツになる。改めて思うと、自分がやっているのはコンテンツビジネスだなと」

樋口「そういうことを、周囲に啓蒙してきたという側面もあるのでは?」

西尾「啓蒙に見えるかもしれないけれど、元来店をするというのは自分でこうだと思っていることをぶつける場なんです。僕らは『人』でお金をもらっている。だから、やっている人間の思想がないのに『飲み屋はこうあるべき』なんて一番滑稽ですね」

樋口「『店とは思想の体現である』と。西尾さんは深井の『チョコレートシティ』『アジャラ』で成功したのにそれを捨て、その上洋酒主体のバーから“ビール屋”へと業態変化をとげ、周囲を驚かせました。普通の人なら成功している店を変えようとは思わないはずです。一体なぜ?」

西尾「地ビールというものが、日本全国でもまだまだ知られていないような頃でしたね。“ゼロから”だから、やったというのがありますね。ゼロからのしんどさはあるんだけれど」

樋口「“誰もしてないからやる!!”。まさしくパイオニア!!」

西尾「ビールファンというのは特殊なんですよ」

樋口「というと?」

西尾「ハードリカーのお客様というのは、せいぜ半径2キロぐらいの絶対商圏内なんです。ところが、ビールのお客様は大阪どころか全国なんです。休日になれば、東京のお客様が大阪まで電車に乗ってやってくる。ビールファンはコスパ度外視なんですよ」

樋口「コスパ度外視! いいですね。僕もコストパフォーマンスという言葉嫌いです。コスパという発想が色んなものをダメにしている側面があるように思います」

西尾「堺のお店なのにカウンターに堺のお客様がおらず、東京のお客様と熊本のお客様が隣り合わせなんてこともありましたよ」

樋口「もはや観光ビジネスじゃないですかぁ!(笑)」

IMG_9276

意味は変えないけれど言葉は変えていく

西尾「ただその時代のキラーコンテンツを渡したからといって、お客様が来るわけではない。ビールがあれば人が来るわけではない。代弁者になるスタッフ、情報を出す側の人間の資質も重要です」

樋口「うまくいかなかったケースもありますか?」

西尾「『ビアワークス』の失敗は、僕もいまだによくわからないんです」

樋口「深井では『チョコレートシティ』を『アジャラ』へとリニューアル、その次のお店が若い人に任せた『ビアワークス』でしたね。それは深井という町が保守的だったということでしょうか?」

西尾「途中でキャッシュオンにしてみたり、スタンディングの席を作ったり色々工夫はしてみました。しかし『ビアワークス』にしてから、前のお店のハードリカーのお客様が一切つかなかった」

樋口「やはり前の店の印象が強すぎたということでしょうか?」

西尾「10年間かけて作ったものの残像があったのは確かでしょう。ただ、僕が町のお客様を捨てたと思われたんじゃないでしょうか」

樋口「失敗だと言いますが『ビアワークス』は、堺の若い飲食関係者に空間づくりから任せたりもして、そこには西尾さんが次の世代に何かを伝える、啓蒙するという意識があったんじゃないですか?」

西尾「自分は何かと考えますね。商売人っぽくはない。経営者、親方、教育者。もうプレイヤーではないとは自覚しています。教えるポジション、エデュケーションの中心にいて、教えろと言われればどこへでも教えに行きます。ただ、ビール一杯を出す技術はいくらでも教えられますが、技術を教えることじゃなくて、思想を教えることだと思います」

樋口「しかし、世代のギャップというか、若いものに教えるのは腹が立ったりしませんか?」

西尾「人間は自分が見てきたものしか理解できません。ジェネレーションギャップはあるけれど、その時代の中にある背景を読んで、意味は変えないけれど言葉は変えていくようなことをしていかないと。長年僕も人に伝わる言葉を勉強して、最近は教えるのがうまくなったな、と思いますね」

Next :日常/非日常

1 2 3 4
Pocket

AD
ホウユウ印刷
ナカモズグレイト!
包丁どっとこむ
もじ工房