生きることは食べること、文人の食への貪欲さ「文人悪食」
食にまつわるエッセイ本といえば、嵐山光三郎「文人悪食」を最初にもってこようと思います。
明治の文人は食にうるさい。ひとくせもふたくせもある文人たちが好んだ料理を人物毎にわけて紹介したエッセイです。
漱石は砂糖まぶしのピーナッツを食べて死んだ。鴎外の好物は焼き芋。芥川龍之介は「羊羹の文字は毛が生えているようだ」と字づらから羊羹を嫌った。
小林秀雄の女への手土産は穴子鮨。太宰は鮭缶に味の素を山ほどふりかけて食べた。林芙美子は鰻飯を食べすぎて死んだ。与謝野晶子は寝酒にコップ酒をあおるのが好きだった。
「美食で有名な谷崎潤一郎は、ヌラヌラ、ぬるぬるした料理を好んだ」なんて、小説そのまんまやん!期待裏切らなさすぎ!という感じ。
この本を手にとったきっかけは十数年前に見たテレビ番組でした。
「坂口安吾は大変な美食家で、鍋の時は水を使わず特級の日本酒おしげもなく使う」というような内容で(うろ覚え)、もっとそういったエピソードが知りたくなり、手に取ったのがこの本です。
37人の文士の食にまつわるあれこれですが、おそらく目次を見るのが一番わかりやすいのではないかと思うのでずらっと書き記します。
夏目漱石・・・ビスケット先生
森鴎外・・・饅頭茶漬
幸田露伴・・・牛タンの塩ゆで
正岡子規・・・自己を攻撃する食欲
島崎藤村・・・萎びた林檎
樋口一葉・・・ドブ板の町のかすていら
泉鏡花・・・ホオズキ
有島武郎・・・一房の葡萄
与謝野晶子・・・一汁一菜地獄
永井荷風・・・最後に吐いた飯つぶ
斎藤茂吉・・・もの食う歌人
種田山頭火・・・弁当乞食
志賀直哉・・・金目のガマのつけ焼き
高村光太郎・・・咽喉の嵐
北原白秋・・・幻視される林檎
石川啄木・・・食うべき詩
谷崎潤一郎・・・ヌラヌラ、ドロドロ
萩原朔太郎・・・雲雀料理
菊池寛・・・食っては吐く
岡本かの子・・・食魔の復讎
内田百間・・・餓鬼道肴蔬目録
芥川龍之介・・・鰤の照り焼き
江戸川乱歩・・・職業は支那ソバ屋なり
宮沢賢治・・・西欧式菜食主義
川端康成・・・伊豆の海苔巻
梶井基次郎・・・檸檬の正体
小林秀雄・・・ランボオと穴子鮨
山本周五郎・・・暗がりで弁当
林芙美子・・・鰻めしに死す
堀辰雄・・・蝕歯にともる洋燈
坂口安吾・・・安吾が工夫せるオジヤ
中原中也・・・空気の中の密
太宰治・・・鮭缶に味の素
檀一雄・・・百味真髄
深沢七郎・・・屁のまた屁
池波正太郎・・・むかしの味
三島由紀夫・・・店通ではあったが料理通ではなかった
豪華な名前がずらりと並び、そのタイトルを見るだけで笑けてきます。最後の三島なんて・・「そんな感じ!」と期待を裏切りません。
安吾の章から少し抜粋すると、
”安吾は鍋料理は相撲部屋なみの大鍋が用意され、ロース肉、ヒレ肉、ランプ肉が一貫ちかくあり、アスパラガスの舶載びん詰が2.3缶はあけられ、チーズに紅鮭の燻製、新潟料理の鮭の醤油漬けがずらりと並んだ”
”安吾の料理好きは当時からよく知られていたことで、(中略)座談会では牛の脳味噌料理の話を披露している”
ヒロポンや睡眠薬に依存していたそうですが、美食とヒロポン、から名文がうまれたのでしょうか。
他の文士のエピソードもそれぞれ濃厚。もう一人一人のエピソードが濃すぎて読むだけでお腹いっぱい、げっぷがでそう。なにより、その貪欲さが強烈に前面に立っているのです。
「何かを生み出すにはうまいもんを食わないとだめ。食に興味のない人は、ものを作りだすことはできない」というのは知人の言葉ですが、37人の文士の欲とそこから物語をつむぎだすパワーは、直結しているように感じます。
この方々が生きていたら、& Riceでインタビューに行きたかった!
Chinaru Higuchi
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楽しく読まさせていただきました。有難う御座いました。文人悪食、僕も読んで見ます。今後も楽しいページをおこしてください。楽しみにしております
玉井さま
コメントありがとうございます!返信が遅くなりすみません。
文人悪食読まれましたか?
この文人シリーズはそのほかにも「文人暴食」「文人悪妻」とあり私もまだ全部読めてませんが、どろどろと濃いですね^^;